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2027年4月施行の労災保険法改正、実務の内容が具体化

執筆者の写真: NANGO
NANGO
10月14日
読了時間: 8分

更新日:3 日前

2026年7月17日に公布された「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第60号)について、施行に向けた政省令の整備が進んでいます。

9月29日の第132回、10月9日の第133回労災保険部会を経て、法律だけでは分からなかった対象疾病、特別加入団体の要件、給付の計算方法などが具体化してきました。

主要部分は2027年4月1日に施行されます。

一方、小規模な個人経営の農林水産業に残る暫定任意適用事業を廃止する部分については、2031年4月1日施行とする政令案が示され、第132回労災保険部会で妥当と答申されています。

今回の改正は、遺族補償年金の男女差、労災給付の請求時効、遅発性疾病の給付額、フリーランスの特別加入団体、不服申立て、農林水産業への適用と、幅広い内容です。

それぞれの改正について、法律で決まったことと、政省令案で具体化されたことを整理します。


① 遺族補償年金の男女差を是正

今回の改正では、遺族補償年金について、夫と妻で異なっていた受給要件を見直します。

これまでは、妻が遺族補償年金を受給する場合には原則として年齢要件がない一方、夫については、55歳以上または一定の障害状態にあることが要件とされていました。

改正後は、夫にのみ設けられていた年齢・障害要件が撤廃されます。

また、遺族が1人の場合の年金額も変更されます。

現行制度では、給付基礎日額の原則153日分ですが、妻が55歳以上または一定の障害状態にある場合には175日分とされています。

改正後は、遺族が1人の場合の年金額が、一律175日分に統一されます。

男女で異なっていた受給要件と給付額を見直す改正です。

なお、2027年4月1日より前に支給事由が生じた遺族補償年金については、経過措置が設けられています。


② 一定の疾病について、請求権の時効を2年から5年へ

労災保険給付の請求権について、一定の疾病を対象に、時効期間が2年から5年へ延長されます。

業務上の疾病には、発症してすぐに仕事との関係が分かるものばかりではありません。

例えば、長時間労働と脳・心臓疾患との関係や、職場での心理的負荷と精神疾患との関係など、業務起因性の判断に時間を要する場合があります。

石綿関連疾病のように、有害物質へのばく露から長期間を経て発症する疾病もあります。

今回の改正は、こうした疾病の性質上、災害補償の事由に該当するかどうかなどを容易に判断できない疾病について、請求できる期間を延ばすものです。

10月9日の第133回労災保険部会に示された政省令案では、対象疾病として次のものが挙げられています。


  • 脳血管疾患

  • 心臓疾患

  • 精神疾患

  • 石綿関連疾病(中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚、一定の石綿肺、良性石綿胸水など)


すべての労災保険給付の請求権について、時効が5年になるわけではありません。

時効期間が延長されるのは、政省令で定められる一定の疾病に係る給付です。


③ 遅発性疾病の給付額を、発症時の生活実態に近づける

石綿関連疾病など、原因となる作業から長期間を経て発症する「遅発性疾病」についても、給付基礎日額の算定方法が見直されます。

労災保険では、休業補償給付や障害補償給付などの額を計算する際に、給付基礎日額が用いられます。

従来、遅発性疾病については、原因となった有害作業に従事していた当時の賃金を基礎として算定する仕組みが採られてきました。

しかし、例えば数十年前に石綿を取り扱う作業に従事し、その後、別の仕事に就いている間に疾病を発症した場合、原因となった作業当時の賃金と、発症時の生活実態との間に大きな差が生じることがあります。

そこで今回の改正では、一定の場合に、発症時の賃金を給付基礎日額に反映する仕組みが示されました。

一方、発症時に就業していない場合については、新たな発症時賃金の取扱いの対象とはせず、現行の取扱いを維持する方向です。

また、改正前に発症した人をどのように扱うかという経過措置についても、省令案が示されています。

これらについては、10月9日の第133回労災保険部会で、おおむね妥当と答申されています。

単に給付額を増やすという話ではなく、何十年も前の賃金を基準にすることが、発症時の生活実態に合っているのかという問題を見直す改正です。


④ フリーランスの特別加入団体を厳格化

労災保険には、通常の労働者ではない人でも、一定の要件を満たせば加入できる「特別加入制度」があります。

フリーランスなどについては、特別加入団体を通じて加入する仕組みが設けられています。

今回の改正では、特別加入の対象を広げるだけでなく、加入を取り扱う団体の適格性や監督を強化する方向が示されています。

政省令案では、一般の特別加入団体について、次のような事項が要件化されます。

  • 労災保険に関する事務を適切に処理すること

  • 災害防止活動を行うこと

  • 加入資格を適切に確認すること

  • 加入者からの相談に対応すること

  • 虚偽・誇大な広報を行わないこと

さらに、「特定フリーランス事業」の特別加入団体については、一般の団体に求められる事項に加え、より具体的な要件が示されています。

  • 1年以上の支援活動実績

  • 100人以上の構成員等

  • 47都道府県での対面相談体制

フリーランスの特別加入では、加入者が団体を通じて保険手続を行うため、団体が適切に運営されていることが重要になります。

加入資格の確認、保険事務、災害防止活動、相談対応などを確実に行える団体であることが求められるわけです。

今回の改正は、フリーランスの保護を広げるだけでなく、その加入を支える団体の運営を適正なものにするという内容でもあります。

なお、上記の具体的な要件は、10月9日の部会に示された政省令案の内容です。


⑤ 給付以外の支援にも、不服申立て制度を整備

労災保険では、保険給付に関する決定に不服がある場合、審査請求や再審査請求を行う仕組みがあります。

今回の改正では、この仕組みが、社会復帰促進等事業による給付や支援にも広げられます。

対象となるものには、次のようなものがあります。


  • 義肢等補装具費

  • アフターケア

  • 通院費

  • 労災就学援護費

  • 労災就労保育援護費

  • 特別支給金


これらの処分についても、労災保険審査官への審査請求や、労働保険審査会への再審査請求ができる仕組みが整備されます。

例えば、必要な支援を申請したものの、不支給と決定された場合などに、その決定を争うための手続が明確になります。

給付や支援の内容だけでなく、不支給となった場合の救済手続まで整備する改正です。


⑥ 小規模農林水産事業は2031年4月から適用見直し

今回の改正では、労災保険の「暫定任意適用事業」の仕組みも廃止されます。

これは、小規模な個人経営の農林水産業の一部に残されている、労災保険の適用上の例外をなくすものです。

現在は任意適用となっている事業についても、労働者を使用する事業であれば、原則として労災保険の適用対象としていくことになります。

ただし、この部分については、2027年4月施行の主要改正とは時期が異なります。

2026年9月29日の第132回労災保険部会では、2031年4月1日を施行日とする政令案が示され、妥当と答申されました。

小規模な個人経営の農林水産業では、家族による手伝いや、繁忙期だけの短期雇用など、さまざまな働き方があります。

また、これまで労災保険の加入手続を行っていなかった事業者については、保険関係の成立や保険料の申告・納付など、新たな事務負担も生じます。

そのため、施行までに対象事業者への周知や加入促進、事務手続を支援する体制の整備などを進めることになります。

この部分だけ施行時期が大きく異なる点は、今回の改正の特徴です。


2027年4月の施行に向けて、今後確認すること

今回の労災保険法改正は、すでに法律が成立・公布されています。

一方、実際の運用に必要な細かな事項については、政令や省令で定める部分があります。

9月29日の第132回労災保険部会では、農林水産業の暫定任意適用事業の廃止時期などが審議されました。

続く10月9日の第133回労災保険部会では、時効延長の対象疾病、遅発性疾病の給付基礎日額、特別加入団体の要件などについて、具体的な政省令案が示されました。

これらの案については、それぞれ妥当、またはおおむね妥当との答申が行われています。

つまり、法律で改正の方向と基本的な仕組みが決まり、その内容を実際に運用するための要件や計算方法が、政省令によって具体化されている段階です。

2027年4月施行分については、今後、関係政省令の正式公布、通達、請求様式などの確認が必要になります。


労災保険法改正 まとめ

今回の労災保険法改正は、遺族補償年金の男女差、一定の疾病に関する請求時効、遅発性疾病の給付額、フリーランスの特別加入団体、給付以外の支援に対する不服申立て、小規模農林水産業への適用と、幅広い内容です。

改正項目はそれぞれ異なりますが、これまでの制度では十分に対応できていなかった部分を見直すという方向でつながっています。

主要部分は2027年4月1日に施行され、小規模農林水産業の暫定任意適用事業の廃止については、2031年4月1日施行とする政令案が示されています。

法律はすでに成立しており、現在は政令・省令によって、対象者や対象疾病、給付の計算方法など、実務上の運用が固まりつつある段階です。

今後は、正式に公布される政省令と通達を確認し、改正内容が実際の請求や給付、加入手続にどのように反映されるのかを見ていく必要があります。


参考資料・出典

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