飲食店の店長は管理監督者?名ばかり管理職の判断基準と監督事例

11月に入り、今年も「過重労働解消キャンペーン」が始まりました。厚生労働省が毎年11月に実施するもので、長時間労働の是正に向けた重点的な監督指導などが行われます。
その直前の2026年10月30日、東京労働局は2025年度(2025年4月~2026年3月)の監督指導結果を公表しました。
監督指導を実施した4,061事業場のうち、3,064事業場(75.4%)で労働基準関係法令違反が認められ、違法な時間外労働も1,548事業場(38.1%)で確認されています。
ただし、これは無作為に選んだ事業場の調査結果ではありません。
労働者からの申告や情報提供などを端緒に、時間外・休日労働が月80時間を超えていると考えられる事業場や、過労死等に関する労災請求が行われた事業場など、長時間労働が疑われる事業場を対象とした監督指導です。
つまり、違反が疑われる事業場を重点的に調べた結果であり、東京の事業場全体の違反率を示すものではありません。
今回の公表資料では、違反内容だけでなく、企業が実際にどのような改善を行ったのかも具体的に紹介されています。
その中から今回取り上げるのは、月92時間の時間外・休日労働が確認され、店長の「管理監督者」としての取り扱いが否定された飲食店の事例です。
月92時間の時間外・休日労働。飲食店の店長が労災請求
労働者7人の飲食店で、店長として勤務していた労働者が、長時間労働によって適応障害を発症したとして労災請求を行いました。
これを受けた監督調査では、発症前6か月間の時間外・休日労働が、最長で月92時間に達していたことが確認されました。
この月92時間という数字は、脳・心臓疾患の労災認定基準で、業務と発症との関連性が強いと評価される目安である「発症前1か月におおむね100時間超」「発症前2~6か月の平均で月80時間超」にも近い水準です。
ただし、今回確認された92時間は、発症前6か月間のうち最も長かった月の数字であり、6か月間の平均を示すものではありません。
まず問題となるのは、この長時間労働と健康障害の関係です。
労働基準法上の管理監督者であっても、過重な業務によって精神障害を発症した場合には、労災認定の対象となります。管理監督者かどうかと、業務による疾病が労災に該当するかどうかは、別の問題です。
なお、今回の公表資料からは、労災請求が認められたかどうかまでは確認できません。
一方、監督調査では、労働基準法上の取り扱いについても問題が明らかになりました。
会社は、この店長を労働基準法41条2号に定める「管理監督者」として扱っていました。
しかし、労働基準監督署は、管理監督者にふさわしい権限がなく、一般の労働者と同様の業務を行っていたことから、管理監督者には該当しないと判断しました。
その結果、労働時間に関する規定が適用され、違法な時間外労働について是正勧告が行われています。
さらに、労働時間が8時間を超える日に、少なくとも1時間の休憩を労働時間の途中に与えていなかったことについても、労働基準法34条違反として是正勧告が行われました。
会社は何を改善したのか
会社は、店長を含めた勤務シフトを見直しました。
休憩時間中の電話取次ぎや業務を行わせないよう全店舗へ通知するとともに、他店舗からの応援体制を構築し、エリアマネージャーが店舗間の人員配置を調整する仕組みを整えました。
ここで注目したいのは、単に労働時間の記録や管理方法を見直すだけでなく、店長が休憩を取れるよう、店舗運営の体制そのものを変更していることです。
休憩中は電話に出ないと決めても、その間に対応できるスタッフがいなければ、実際の休憩確保にはつながりません。
今回の事例では、長時間労働による健康障害の問題に加え、店長を管理監督者として取り扱っていたこと、休憩を確保できていなかったことが、それぞれ問題となりました。
なかでも、飲食店の経営者にとって確認しておきたいのが、店長の「管理監督者」としての取り扱いです。
店長という役職に就いていれば、労働基準法上の管理監督者になるのでしょうか。
どのような権限や裁量があれば認められ、どこからが「名ばかり管理職」と判断されるのか。
その境界線を具体的に見ていきます。
1.「店長」と「管理監督者」は同じではない
労働基準法41条2号は、一定の管理監督者について、労働時間・休憩・休日に関する規定を適用しないと定めています。
ここでいう管理監督者とは、単なる店舗責任者ではなく、労働条件の決定その他の労務管理について、経営者と一体的な立場にある者を指します。
管理監督者に該当するかどうかは、主に次の3つを総合的に判断します。
職務内容、責任と権限
勤務態様、特に労働時間についての裁量
賃金や役職手当などの待遇
店長という役職名や雇用契約書の記載ではなく、実態で判断されます。
では、アルバイトの採用やシフト作成、売上管理などを任されている店長は、どこまでの権限や裁量があれば管理監督者と認められるのでしょうか。
具体的な境界線を見ていきます。
2.管理監督者の境界線はどこにあるのか
厚生労働省は2008年、多店舗展開する小売業・飲食業等の店舗管理者について、管理監督者の範囲を適正化するための通達を示しています。
この通達では、管理監督者性を否定する重要な要素と、その判断を補強する要素が整理されています。
飲食店の実際の運営に置き換えて考えてみます。
① アルバイトの採用を決められるか
店長がアルバイトの面接を担当することは珍しくありません。
しかし、面接をして本部に報告するだけで、採用するかどうかは本部が判断している場合、店長に実質的な採用権限があるとは言いにくくなります。
一方、最終的な採用手続きは本部が行っていても、店長が候補者を選定し、その判断が実質的に尊重されている場合はどうでしょうか。
厚生労働省の通達では、採用に関する権限について、人選のみを行う場合も含めて判断しています。
つまり、形式的な決裁者が誰かではなく、誰が実質的に採用を判断しているのかが重要です。
ただし、採用権限があるだけで管理監督者と認められるわけではありません。
② シフトを作る権限と、労働時間を決める権限
店長がシフト表を作成している店舗も多いでしょう。
しかし、スタッフの希望を集め、本部が指定した人件費や必要人数に合わせてシフトを組んでいるだけなら、その権限は限定的です。
一方、店長自身が業務量に応じて人員配置を決定し、必要な時間外労働を命じる権限まで持っていれば、労務管理上の責任と権限が認められる方向に働きます。
ここで区別したいのは、スタッフの勤務時間を決める権限と、店長自身の勤務時間を決める裁量は別だという点です。
③ 店長自身が自由に出退勤できるか
例えば、営業時間が午前11時から午後10時までの店舗で、店長は必ず開店から閉店まで勤務するよう求められているとします。
アルバイトが欠勤すれば店長が代わりに入り、忙しい日には帰れない。休憩時間にも店舗からの連絡に対応しなければならない。
こうした働き方では、自分の勤務時間を決める裁量がほとんどありません。
厚生労働省の通達でも、人員不足を補うために長時間労働を余儀なくされ、実際には労働時間の裁量がほとんどないことは、管理監督者性を否定する補強要素とされています。
一方、タイムカードを打刻しているだけで管理監督者性が否定されるわけではありません。
管理監督者であっても、健康障害防止や深夜割増賃金の計算などのために、労働時間の状況を把握する必要があります。
問題は打刻の有無ではなく、出退勤について実質的な裁量があるかどうかです。
④ 店長が接客や調理をしていたら、管理監督者ではないのか
店長が接客、調理、清掃、レジ締めなどを行っているからといって、それだけで管理監督者性が否定されるわけではありません。
小規模な飲食店であれば、店舗責任者が現場業務を兼ねることは自然です。
ただし、店舗全体の管理を行いながら、必要に応じて現場業務を補助する場合と、営業時間の大半を一般スタッフと同じ業務に費やし、欠員を埋めるために常時勤務せざるを得ない場合では、事情が異なります。
後者のような勤務態様は、管理監督者性を否定する方向に働きます。
今回の東京労働局の事例でも、一般労働者と同様の業務に従事していたことが、権限の不足とともに判断理由として挙げられています。
⑤ 店長手当があれば管理監督者になるのか
店長手当や役職手当を支払っていることも、それだけでは十分ではありません。
管理監督者には、その地位と責任にふさわしい待遇が必要です。
例えば、店長手当が支払われていても、長時間勤務が続き、一般スタッフと比較して十分な処遇上の差がない場合はどうでしょうか。
厚生労働省の通達では、実際の労働時間で賃金を割り戻した金額が、店舗のアルバイト・パートの時間単価を下回る場合を、管理監督者性を否定する重要な要素としています。
ただし、月給がいくら以上なら管理監督者になるという、一律の金額基準はありません。
高い給与を支払っていても、権限や勤務態様が伴わなければ、管理監督者とは認められない可能性があります。
3.では、どこまでなら管理監督者と認められるのか
採用権限やシフト作成、役職手当など、個々の条件だけで管理監督者かどうかは決まりません。
例えば、次の2つのケースを比較してみます。
【ケースA:権限や勤務の裁量が限られている店長】
アルバイトの面接やシフト作成、売上管理を担当し、店長手当も支払われている。
しかし、採用の決定権は本部にあり、人員配置も本部の指示や予算に従っている。人員不足の際には自ら接客や調理に入り、出退勤を自由に調整することも難しい。
この場合、店舗責任者として一定の役割を担っていても、実質的な権限や勤務の裁量が限られており、管理監督者性は否定される方向に働きます。
【ケースB:実質的な権限と勤務の裁量がある店長】
採用、人事評価、人員配置について実質的な決定権を持ち、店舗運営上の重要な判断を任されている。
自分の勤務時間も業務の状況に応じて調整でき、その責任にふさわしい待遇を受けている。
この場合、管理監督者性を肯定する方向の事情が認められます。ただし、権限の範囲や経営上の立場なども含め、総合的な判断が必要です。
ここで重要なのは、店舗運営の責任を負っていることと、経営者と一体的な立場にあることは、必ずしも同じではないという点です。
売上や人員管理の責任を負いながら、実際には本部の指示に従って現場を回すしかない店長もいます。
厚生労働省の通達でも、示された否定要素に該当しないからといって、直ちに管理監督者性が認められるわけではないとされています。
肩書や個別の権限だけではなく、責任に見合う実質的な権限、勤務の裁量、待遇が伴っているかを確認することが重要です。
4.管理監督者と認められるかどうかで、何が変わるのか
今回の事例では、監督署が店長の管理監督者性を否定したことが、法令違反の判断に大きく関わっています。
仮に、この店長が労働基準法上の管理監督者に該当していた場合、どのような違いがあったのでしょうか。
【管理監督者に該当する場合】
労働基準法41条により、法定労働時間、休憩、法定休日に関する規定は適用されません。
そのため、月92時間の時間外・休日労働に相当する勤務があっても、それだけで労働時間の上限規制違反とはならず、36協定による時間外・休日労働の管理や、時間外・休日割増賃金の支払いも法律上は必要ありません。
また、労働基準法34条の休憩付与義務も適用されません。
ただし、深夜労働の割増賃金や年次有給休暇の規定は適用されます。
何より、管理監督者であっても、長時間労働による健康障害を防ぐための措置は必要です。過重労働による精神障害についても、労災認定の対象となります。
【管理監督者に該当しない場合】
通常の労働者と同じく、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されます。
法定労働時間を超えて働かせるには36協定の締結・届出が必要となり、その範囲や法定の上限規制を守らなければなりません。
時間外・休日労働に対する割増賃金の支払いも必要です。
さらに、労働時間が8時間を超える日には、少なくとも1時間の休憩を労働時間の途中に与える義務があります。
今回の事例では、管理監督者性が否定されたことで、こうした規定が適用され、違法な時間外労働と休憩不付与について是正勧告が行われました。
また、過去に管理監督者として取り扱っていた期間についても、割増賃金の未払いが生じていないか確認が必要になります。
つまり、管理監督者かどうかで変わるのは、労働時間・休憩・休日に関する法律の適用であって、長時間労働による健康障害のリスクがなくなるわけではありません。
休憩を取れる体制になっているか
今回の事例では、もう一つ注目したい点があります。
会社は、休憩中に電話対応などをさせないよう全店舗へ通知しました。
しかし、店長に電話を取らせないと決めるだけでは、休憩は確保できません。
店長以外に対応できるスタッフがいなければ、結局店長が呼び戻されることになります。
だからこそ、他店舗からの応援体制を整え、エリアマネージャーが人員配置を調整する仕組みまで変更したことに意味があります。
休憩を取るよう指示することと、実際に休憩を取れる勤務体制を作ることは別です。
これは、店長だけでなく、一般スタッフにも共通する問題です。
5.月227時間の時間外・休日労働。営業時間まで見直した飲食店の事例
東京労働局が2025年10月31日に公表した、2024年度の監督指導結果にも、飲食店の具体的な改善事例が紹介されています。
労働者約60人の飲食店で、月100時間以上の時間外・休日労働が疑われ、労働基準監督署が立入調査を行いました。
調査の結果、15人の労働者に違法な時間外・休日労働が認められ、最も長い労働者では月227時間に達していました。
原因として挙げられているのは、イベントによる業務の繁忙と人手不足です。
36協定の特別条項で定めた月80時間を超え、法律上の上限規制にも違反していました。さらに、36協定で定めた休日労働の日数も超過し、労働時間が8時間を超える日に1時間の休憩を与えていないことも確認されています。
休憩についても、現場特有の問題がありました。
調理場などで休憩を取っていたものの、業務の合間の手待時間との区別が曖昧になっていたのです。
インカムをつけたままでは、連絡が入れば対応を求められる可能性があります。休憩時間として扱っていても、実際には仕事から離れられていない場合があります。
営業の仕組みを変えて長時間労働を削減
この事例で注目したいのは、会社が実施した改善策です。
まず、ラストオーダーの時刻を繰り上げ、営業時間を短縮し、定休日も増やしました。
さらに、人員を補充するとともに、忙しい時間帯に合わせて出勤時刻をずらすなど、勤務シフトを見直しています。
休憩については、インカムを外すことを徹底し、業務から離れて休めるようにしました。
つまり、単に残業を減らすよう指示したのではなく、営業時間、営業日、人員配置、休憩の取り方まで変更したのです。
その結果、時間外・休日労働は月40時間程度まで減少したと報告されています。
飲食店では、営業時間中に必要な人員を確保しなければならず、欠員が出れば残ったスタッフに負担が集中しがちです。
シフトを調整するだけでは対応しきれない場合、営業時間や定休日を見直すことも選択肢になります。
先ほどの店長の事例では、店舗間の応援体制を整えることで休憩を確保できる仕組みを作りました。
一方、この事例では、営業体制そのものを変更しています。
どちらも、長時間労働の原因を現場の働き方だけに求めず、人員配置や店舗運営の仕組みから見直した点が共通しています。
6.飲食店で確認しておきたいこと
今回の監督事例では、店長を管理監督者として取り扱っていたことに加え、長時間労働や休憩を確保できない勤務体制が問題となりました。
また、営業時間や定休日を見直すことで、長時間労働を大幅に削減した事例もありました。
いずれも、勤怠管理や就業規則を整えるだけでは解決しない、店舗運営そのものに関わる問題です。
店長については、役職名ではなく、実際の権限、勤務の裁量、待遇を確認する必要があります。そして、管理監督者に該当するかどうかにかかわらず、長時間労働による健康障害を防ぐことは必要です。
労働時間が上限を超えていないか、実際の勤務時間を正しく把握しているか、適切な賃金を支払っているか、必要な健康確保措置を実施しているか。
これらはそれぞれ別の確認事項ですが、現場では密接につながっています。
例えば、勤怠記録が正確でも、特定の店長に仕事が集中している状態は改善されません。休憩時間をシフトに組み込んでいても、代わりに対応できる人がいなければ、実際の休憩は確保できません。
大切なのは、書面上のルールと実際の働き方が一致し、無理なく運用できる仕組みになっていることです。
11月の過重労働解消キャンペーンは、監督指導が重点的に行われる期間であると同時に、自分の店の働き方を見直す機会でもあります。
勤怠記録を確認するだけでなく、誰に仕事が集中しているのか、休憩は実際に取れているのか、その原因が人員配置や営業時間にないか。
そうした現場の実態まで、一度確認しておきたいところです。
参考資料
・東京労働局「長時間労働が疑われる事業場に対する令和7年度の監督指導結果を公表します」(2026年10月30日)
・東京労働局「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果」(2025年10月31日)
・厚生労働省「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(平成20年9月9日付け基発第0909001号)
・厚生労働省「過重労働解消キャンペーン」




コメント