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ノロウイルス食中毒、神奈川県で相次ぐ。「食中毒」と「感染症」の境目を考える

執筆者の写真: NANGO
NANGO
10月21日
読了時間: 10分

更新日:3 日前

10月に入り、神奈川県内でノロウイルスによる食中毒の発表が続いています。10月16日には、綾瀬市の社員食堂で24人が発症した食中毒が発表されました。


今、どこで起きているのか

ノロウイルスは、例年、冬に向けて増えます。厚生労働省は、感染性胃腸炎の報告が、例年10月下旬ごろから増える傾向にあるとしています。

今年も、その時期に入りました。

神奈川県内で、10月に発表された主なノロウイルス食中毒は、次のとおりです。


藤沢市(江の島周辺)

10月8日に、江の島周辺の2つの飲食店でノロウイルス食中毒が発表されました。いずれも3日間の営業禁止処分となっています。


鎌倉市

10月3日と10月5日に、それぞれ別の飲食店でノロウイルス食中毒が発表されました。いずれも3日間の営業禁止処分となっています。

藤沢市と鎌倉市のこれら4件は、いずれも9月26日に提供された食事が対象です。


綾瀬市

10月16日に、工場内の社員食堂でノロウイルスによる食中毒が発表されました。営業禁止処分は10月19日に解除されています。


藤沢市と鎌倉市の事例では、原因食品はいずれも調査中です。主なメニューに生しらす丼や海鮮丼が含まれている店舗もありますが、原因食品は確定していません。

神奈川県以外でも、仙台市で10月9日、ラーメン店のノロウイルス食中毒が発表され、3日間の営業停止処分となっています。

飲食店では、従業員の体調確認と手洗い、体調不良を申告できる環境づくりを、改めて見直す時期です。


綾瀬市の事例|県の発表の中身

神奈川県の10月16日の発表(19日更新)の内容を整理します。


発生から営業禁止解除まで


  • 10月5日: 食堂が朝食、昼食、夕食を提供。

  • 10月6日午前10時ごろ: 最初の患者が発症。

  • 10月7日: 事業所から保健所に「複数の職員が、下痢、嘔吐、発熱などの症状」と連絡。食堂は同日午前11時から営業を自粛。

  • 10月16日: 県の厚木保健福祉事務所大和センターが食中毒と決定し、営業禁止処分。

  • 10月19日: 営業禁止処分を解除。


営業を自粛した10月7日から、営業禁止が解除された10月19日まで、2週間近く食堂は止まったことになります。


発症の状況

食堂で食事をした51人(男性47人、女性4人)のうち、24人が発症しました。発症者は全員男性で、入院者はいません。

主な症状は、下痢、吐き気、発熱、嘔吐などです。


検査の状況

検査対象

検体数

結果

患者の便

13検体

12検体が陽性

調理従事者の便

8検体

4検体が陽性

施設の拭き取り

5検体

すべて陰性

検食

8検体

すべて陰性

患者と調理従事者の便から検出されたのは、ノロウイルスGⅡです。


県が食中毒と判断した理由

県は、次の5点を判断の理由として挙げています。


  1. 症状のある人に共通する食事が、この食堂の食事だけだったこと。

  2. 患者の症状が共通していること。

  3. 患者12人と調理従事者4人の便から、ノロウイルスが検出されたこと。

  4. 患者の症状と潜伏期間が、ノロウイルスによるものと一致すること。

  5. 患者を診察した医師から、食中毒の届出があったこと。


ここで一つ確認しておきたいのは、判断の理由に「食品や調理環境から、ノロウイルスが検出された」という項目が入っていないことです。

食品(検食)と施設の拭き取りの検体は、すべて陰性でした。

ウイルスが検出されたのは、患者と調理従事者の便です。


「食中毒」と「感染症」の境目

食中毒対策というと、食材の仕入れ、加熱、保存温度、器具の洗浄といった「食品そのものへの管理」を思い浮かべます。

多くの細菌性食中毒では、こうした管理を積み重ねることでリスクを下げることができます。

ところが、ノロウイルスは少し事情が異なります。

厚生労働省の「ノロウイルスに関するQ&A」では、ノロウイルス食中毒について、食品から直接ウイルスを検出することは難しく、約7割の事例で原因食品が特定できていないとされています。

その理由の一つとして、感染した食品取扱者を介して食品が汚染されるケースが多いことが挙げられています。

ノロウイルスでは、食品を調べてもウイルスが見つからないこと自体は珍しくありません。

綾瀬市の事例で、検食と施設の拭き取りがすべて陰性だったことも、その意味では特別な結果ではありません。

一方で、ここから別の難しさが生じます。

ノロウイルスは、「食品を介する食中毒」と「人から人へ広がる感染症」の両方の性格を持っています。

厚生労働省のQ&Aでは、感染経路として、食品や水だけではなく、感染者の便や吐物、人同士の直接接触なども挙げられています。

ノロウイルスは食品の中で増殖するわけではありません。人の腸管で増殖し、感染した人が店舗の外からウイルスを持ち込むことがあります。


無症状感染という難しさ

さらに問題を難しくしているのが、無症状感染です。

感染していても症状が出ない人や、症状が非常に軽い人がいます。本人に自覚がなければ、始業前に体調確認をしても感染者を完全に把握することはできません。

飲食店では、体調不良の従業員を調理に従事させないことが基本です。

しかし、実際の現場では、体調不良者が出れば、その日の人員や担当業務を調整しなければなりません。急な欠勤に対応できるだけの人員を、常に確保できる店舗ばかりではありません。

だからこそ、体調不良を申告した従業員が無理に出勤しなくて済むよう、日頃から対応を考えておく必要があります。

一方で、無症状感染は、こうした勤務管理だけでは対応できません。

本人に症状がなく、感染している自覚もなければ、体調不良を申告すること自体ができないからです。

店舗側では、始業時の健康確認、石けんと流水による手洗い、発症者の就業制限、トイレの清掃・消毒、必要に応じた検便などの対策を取ることができます。

どれも重要な対策です。

ただし、それらを実施しても、無症状の感染者が家庭や外出先で感染し、店舗にウイルスを持ち込むリスクは残ります。


ノロウイルスを持ち込むのは従業員だけではない

そして、ウイルスを持ち込むのは従業員だけではありません。

感染したお客様が来店し、店舗のトイレを利用したり、店内で嘔吐したりすれば、ドアノブ、洗面台、床、共用設備などを介して、別のお客様や従業員に感染が広がる可能性があります。

飲食店では、従業員の健康状態や衛生管理について一定のルールを設けることができます。

しかし、不特定多数のお客様が利用する店舗では、来店するすべての人について感染の有無を確認することはできません。

お客様が店内で嘔吐した場合には、適切な処理や消毒が必要になります。それでも、感染者が来店すること自体を完全に防ぐことはできません。

こうした感染経路があることを考えると、ノロウイルス対策は、単に厨房や食品を管理するだけでは完結しません。


食品を介した感染と、それ以外の感染

ここでは、次の二つを区別する必要があります。


① 料理がウイルスに汚染され、それを食べて感染した場合

② 感染者が店を利用し、店内環境などを介して別の人に感染した場合


この二つは、同じ店舗で複数人が感染したという結果だけを見れば似ていますが、食品衛生上の意味は異なります。

同じ店を利用したことと、その店の料理が原因で感染したことは、同じではありません。

食品を介した感染を防ぐためには、調理従事者の衛生管理や食品の適切な取扱いが重要です。

一方、人から人へ、あるいは店内環境を介して感染する場合には、厨房だけでなく、客席やトイレなども含めた対策が必要になります。

そして、その感染源が従業員とは限らないところに、飲食店としての対応の難しさがあります。


食品を介した感染か、人や環境を介した感染か

綾瀬市の事例で発表されているのは、食堂を利用した51人のうち24人が発症し、患者12人と調理従事者4人の便からノロウイルスが検出されたことです。

一方で、原因食品は調査中です。

さらに、県の公表資料からは、どの従事者がいつ感染したのか、どの工程で食品が汚染されたのか、あるいは食品以外の感染経路をどこまで排除したのかまでは確認できません。

ただし、公表資料に記載されていないことと、調査が行われていないことは別です。

ここで確認しておきたいのは、個別の食中毒判断の妥当性ではなく、ノロウイルスには食品以外の感染経路もあるということです。

この点について、厚生労働省はノロウイルス食中毒の調査に際し、食中毒と判断する場合には、感染者との濃厚接触や、糞便・嘔吐物による環境を介した感染など、食品を介さない感染ではないと判断した根拠を明確にするよう求めています。

食品を介した感染と、人や環境を介した感染は、同時に起こる可能性もあります。

それだけ、ノロウイルスの感染経路は複雑です。

そして、感染経路の違いは、飲食店がどのような対策を取れるのかという問題にもつながります。

食品の管理や調理従事者の衛生管理は、店舗として取り組むことができます。

しかし、人から人への感染があり、無症状の感染者がいて、お客様からウイルスが持ち込まれることもある以上、店舗の管理だけですべての感染経路に対応することはできません。

飲食店ができることと、飲食店だけでは管理しきれないこと。その両方がノロウイルス対策にはあります。


営業停止の影響と、労務の問題へ

綾瀬市の食堂は、行政処分を受ける前の10月7日午前11時から自主的に営業を止め、10月19日の解除まで、2週間近く食堂が止まりました。

行政処分としての営業禁止は10月16日からですが、実際に営業できなかった期間はそれよりも長くなっています。

今回は、営業禁止処分に伴い、県が施設名や営業者名を公表しています。

営業が止まる間の売上、従業員の給与、取引先との関係、評判への影響も生じます。

なお、食中毒の原因施設として認定されることと、営業者に衛生管理上の過失があったかどうかは、別の問題です。

そして、営業が止まれば、従業員にも影響します。

例えば、営業を再開できる日が分からなければ、その間のシフトをどうするのかという問題が生じます。

調理従事者にノロウイルスが検出された場合には、本人に症状がなくても、食品に直接触れる業務への従事をどう扱うのかを考えなければなりません。

ほかの業務に変更できるのか、代わりの人員を確保できるのか。店舗の規模や業務内容によって、対応できる範囲も異なります。

さらに、休業中の賃金、検便にかかる費用、派遣スタッフの扱いなど、現場では労務上の論点も続きます。

食中毒は、直接の労務の話ではありません。

ただ、営業停止や従業員の体調管理を通じて、労務と隣り合っている話です。

食中毒発生時の労務の問題(休業手当、検便の費用、就業制限、派遣スタッフの扱いなど)については、別の記事で取り上げます。


まとめ

ノロウイルスの流行期には、従業員の体調確認、手洗い、食品の適切な取扱い、施設の清掃・消毒など、日々の衛生管理を徹底する必要があります。

特に、体調不良の従業員が無理に出勤しなくて済むよう、勤務体制を整えておくことも重要です。

しかし、ノロウイルスは食品だけでなく、人から人へ、環境を介しても感染します。

無症状の感染者もいるため、従業員の健康確認だけでは感染を完全に把握できません。お客様が店舗の外からウイルスを持ち込む可能性もあります。

飲食店として必要な対策を取ることと、感染を完全に防げることは別です。

だからこそ、日頃の衛生管理だけでなく、感染が疑われる従業員が出たときの勤務調整や、営業を止めることになった場合の対応まで考えておく必要があります。

営業停止は、事業者の経営だけでなく、従業員の仕事や生活にも影響します。

ノロウイルス対策は、食品衛生の問題であると同時に、日々の店舗運営や人員管理にも関わる問題なのです。


参考資料・出典

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