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出産育児一時金に代わる新制度、施行はいつ?現物給付と現金給付の2本立てに

執筆者の写真: NANGO
NANGO
10月19日
読了時間: 10分

更新日:6 日前

出産育児一時金に代わる新制度、施行はいつ?現物給付と現金給付の2本立てに

厚生労働省は10月16日、第218回社会保障審議会医療保険部会を開催しました。今回の議題の一つが、医療保険制度における出産支援の強化です。

10月16日の資料では、2026年6月5日に公布された健康保険法等改正法に基づき、現在の出産育児一時金に代わる新たな給付方式の具体化が議論されています。

新制度では、2つの給付を設ける構造になっています。


①現物給付(分娩施設へ直接支払) 保険診療以外の標準的な分娩について、国が基本単価を設定し、保険者から分娩施設へ直接支払う。施設の体制や役割に応じた加算も設定。

②現金給付(妊婦本人へ支給) 保険診療の一部負担金など、出産時に生じる費用負担を軽減するため、すべての妊婦に対する定額の現金給付。


新たな給付方式の導入時期は、法律の公布後2年以内に政令で定める日です。


スケジュール

2026年6月5日:健康保険法等改正法を公布 

2026年10月16日:第218回医療保険部会で新制度の具体化を議論 

2026年10~12月:基本単価、現金給付水準、保険料財政への影響などを検討 

2026年12月頃:給付水準を含めた制度全体像の取りまとめ(目標) 

2028年6月5日まで:政令で指定された日に施行

※法律上は「公布後2年以内の政令で定める日」とされており、最長でも2028年6月5日まで。ただし、2028年6月に施行すると決まったわけではありません。


施行時期の見立て

2026年10月16日の医療保険部会では、基本単価、施設加算、妊婦への現金給付、サービスの見える化など、かなり実装に近い論点まで既に示されています。

まだ法律の骨格を議論している段階ではなく、実際の給付水準や運用方法を具体化する段階に入っています。

一方で、2027年春すぐに施行するには準備期間が短いと考えられます。2026年末に制度全体像をまとめた後も、政令・告示・実務通知の整備、保険者や分娩施設への周知、請求事務やシステム対応などが必要になります。特に今回の制度は、新しい給付方式を作れば終わりではありません。

この進行状況からみると、2027年春すぐの施行はやや早い一方、2028年6月の期限ぎりぎりまで待つ流れも読み取りにくい状況です。

現時点の工程からの見立てとしては、

2027年秋〜2028年4月頃の施行が、制度確定後の準備期間を考えて現実的な範囲と考えられます。

もちろん、これは現時点の資料から工程を逆算した推測であり、具体的な施行日はまだ決まっていません。ただ、2027年に出産を予定する人にとっても、無関係とは言えない段階まで具体化が進んでいます。


そもそも、出産育児一時金は何のための制度なのか

今回の制度見直しを考える前に、現在の出産育児一時金が何のためにある制度なのかを確認しておく必要があります。

出産育児一時金は、健康保険法第101条などに基づく給付制度で、出産に伴う経済的負担を軽減し、被保険者やその家族が安心して出産できるよう支援することを目的としています。

正常分娩は原則として健康保険の療養の給付の対象外であり、分娩費用は基本的に全額自己負担となります。その負担を軽減するため、公的医療保険から一定額を支給する仕組みです。

制度の目的を整理すると、以下の3つです。


・出産費用の負担軽減  分娩や入院などに伴う費用を補填し、家計への負担を減らす。

・安心して出産できる環境の確保  経済的な理由によって出産への不安が大きくならないよう支援する。

・出産に対する公的な経済支援  出産に伴う費用を社会保険制度によって支える。


厚生労働省は、出産育児一時金について、出産に伴い一時的に発生する主な費用を補填するものと説明しています。2023年に一時金を42万円から50万円へ引き上げた際も、平均的な標準費用をできるだけ賄えるようにすることが目的とされていました。

出産育児一時金は、分娩施設の収入を保障するために作られた制度ではありません。医療機関の経営を維持する必要があるとしても、それは別の政策課題です。まず現在の一時金が何を目的としている制度なのかを基準に、その後の議論を見る必要があります。


2023年、42万円から50万円へ

2023年4月、出産育児一時金は42万円から原則50万円へ、8万円引き上げられました。背景には、出産費用の上昇があります。

2012年度の平均出産費用は41万7,000円でした。当時の出産育児一時金は42万円ですから、平均的な出産費用をほぼ一時金で賄える水準でした。

しかし、その後、一時金が42万円に据え置かれる一方で、出産費用は上昇を続けます。2022年度の平均出産費用は48万2,000円。10年間で6万5,000円、1年当たり平均約6,500円の上昇です。

こうした費用上昇を受けて、2023年4月、一時金は42万円から50万円へ引き上げられました。

ところが、2023年度の平均出産費用は50万6,540円。2022年度の48万2,294円から、わずか1年で2万4,246円上昇しました。10年間の年平均約6,500円に対して、2022年度から2023年度の1年だけで約3.7倍の上昇幅です。

月単位でも大きな動きがあります。国立国会図書館の調査資料によると、引上げ直前の2023年3月の平均出産費用は48万7,838円。引上げ後の4月は50万2,297円。わずか1か月で1万4,459円、約3%の上昇です。


「一時金が増えても、産院が値上げしたら意味がない」

この時期、SNSなどでも大きな反応がありました。

2023年1月、一時金の8万円増額が決まった後、正常分娩の基本料金を58万円から66万円へ8万円引き上げた産院のSNS投稿が拡散しました。

当時の報道や投稿では、「私が出産した産院も値上げしていた」「病院への補助金になっているだけではないか」といった反応が紹介されています。

ネット上では、「一時金の増額に合わせた便乗値上げではないか」という批判も出ました。

当時の反応を整理すると、以下のような声がありました。

・一時金と同額の8万円を値上げするのは納得できない 

・給付が増えても病院への支払額が増えるだけなら負担は変わらない

 ・分娩予約後に価格が変わっても簡単には産院を変えられない 

・正常分娩も保険適用にしてほしい 

・8万円増えることで自己負担が減るなら助かる


一方、医療機関側の事情もあります。

大阪府のクリニックは日本テレビの取材に対し、さまざまな費用が値上がりして経営が厳しく、一時金の増額時であれば妊婦の負担を抑えながら料金改定できると説明しています。埼玉県のクリニックも、医療機材の価格が約10%上昇しており、本来は値上げしたくないと説明していました。

国立国会図書館の調査資料でも、産科診療所の経営が厳しい中、一時金の引上げまで価格改定を待っていたという医療機関側の説明が紹介されています。

ここは分けて考える必要があります。人件費、医療材料費、光熱費などが上昇し、分娩施設が価格改定を必要としていたことと、出産育児一時金が何のための制度なのかは別の話です。

出産育児一時金は、医療機関の経営を保障するための制度ではなく、出産する側の経済的負担を軽減するための制度です。医療機関を守る必要があるなら、その必要性自体を否定する話ではありません。ただし、それは本来、医療提供体制を維持するための別の仕組みで扱うべき問題だと思います。


では、50万円への引上げは意味がなかったのか

厚生労働省は、8万円の増額によって、引上げ直後には平均的な負担が約5万4,000円軽減されたと説明しています。

引上げ直後には、実際に負担軽減効果がありました。

一方で、その後、出産費用が再び上昇します。厚労省の全国平均は、

・2023年度 50.7万円(前年度比+2.4万円) 

・2024年度 52.0万円(前年度比+1.3万円) 

・2025年3月請求分 52万3,549円

と推移しています。2025年度以降の確定情報はまだ出ていませんが、2026年度には少なくとも54万円前後まで上昇する可能性があります。

一時金と平均出産費用との差は、再び広がっています。

ここに、現在の一時金方式の構造的な問題があります。

妊婦の負担を軽減するために一時金を増やしても、各分娩施設が価格を設定する仕組みのままであれば、分娩費用が上昇することで給付増額の効果が薄れていく可能性があります。

一方で、分娩施設の価格だけを抑えればいいわけでもありません。産科医療を維持するには、人件費、設備、夜間・休日の対応、緊急時の医療体制などの費用が必要です。

国会の附帯決議でも、妊婦の負担軽減だけではなく、分娩施設の経営実態、地域差、人件費、物価上昇などを考慮し、地域の産科医療提供体制を維持することが求められています。


新制度では、二つの問題を切り分ける

今回示されている新制度では、目的の異なる二つの給付を設けます。

第一は、分娩施設に直接支払われる現物給付です。保険診療以外の標準的な分娩対応について、国が全国同水準の基本単価を設定します。そのうえで、施設の体制や役割に応じた加算を設けます。正常分娩で基本単価の対象となる標準的なサービスを利用した場合、その部分については原則として妊婦が別途負担しない仕組みです。

第二は、妊婦本人への定額の現金給付です。こちらは、保険診療の一部負担金など、標準的な分娩対応に対する現物給付だけではカバーできない出産時の費用を軽減するためのものです。現金給付額はまだ決まっていません。

この二つを分ける意味は大きいです。

これまでは、一つの「出産育児一時金」の中で、 「分娩にかかる費用を賄う」 ことと、 「出産する本人の経済的負担を軽減する」 ことを同時に処理していました。

しかし、2023年の引上げ後の動きを見ると、この二つを同じ仕組みの中で処理する難しさが見えてきました。妊婦の負担軽減のために給付額を増やしても、分娩費用が上昇すれば負担軽減効果は弱くなる。一方、分娩費用を抑えることだけを優先すれば、医療機関の経営や地域の産科医療提供体制が維持できなくなる可能性があります。

そこで新制度では、

・医療提供体制を維持するための費用については、基本単価と施設加算で評価する 

・妊婦本人の経済的負担を軽減するための給付については、別建ての現金給付で扱う

という形に分けます。

医療機関を守る必要があるなら、医療機関を守るための仕組みで守る。出産する人の経済的負担を軽減するという制度目的は、それとは別に守る。

2023年の一時金引上げ後に表面化した問題を受けて、「医療制度を維持するためのお金」と「出産する本人を支えるためのお金」を切り分ける。制度そのものを組み替えようとしているのが、今回の改正から読み取れます。


参考資料・出典

・厚生労働省「第218回社会保障審議会医療保険部会(2026年10月16日)資料」新たな出産支援制度の基本単価、施設加算、妊婦への現金給付、今後の検討スケジュール等。第218回医療保険部会資料 厚生労働省

・厚生労働省「健康保険法等の一部を改正する法律の各施行日」妊娠・出産に対する支援の強化について「公布後2年以内」と整理。健康保険法等の一部を改正する法律の各施行日 厚生労働省

・厚生労働省「医療保険制度改正法が成立しました」2026年5月29日の法案成立、妊娠・出産支援強化を含む医療保険制度改革の概要。医療保険制度改正法が成立しました 厚生労働省

・厚生労働省「第6回 妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会 議事録」出産育児一時金の制度目的、42万円から50万円への引上げ、正常分娩費用の推移等。第6回検討会議事録 厚生労働省

・厚生労働省「広報誌『厚生労働』2024年5月号」2023年の一時金50万円への引上げについて、平均的な標準費用を賄えるようにする目的だったことを説明。厚生労働2024年5月号 厚生労働省

・厚生労働省「正常分娩の都道府県別の平均出産費用(令和6年度)」2024年度の全国の出産費用データ。出産育児一時金の直接支払制度請求データを基に集計。令和6年度の平均出産費用 厚生労働省

・厚生労働省「正常分娩の施設別の平均出産費用(令和6年度)」2024年4月~2025年3月請求分の直接支払制度データを集計した施設別資料。令和6年度の施設別平均出産費用 厚生労働省

・国立国会図書館 調査資料「出産費用の保険適用」2023年3月48万7,838円、4月50万2,297円という引上げ前後の出産費用の変化や、医療機関側の価格改定に関する説明を整理。国立国会図書館「出産費用の保険適用」 国立国会図書館

・日本テレビ「“一時金”アップで出産費用『便乗値上げ』……医療機関『このタイミングなら』『全て値上げで苦しい』」2023年1月12日一時金引上げ前後の医療機関の値上げ事例、医療機関側の説明、当時の反応を報道。日テレNEWS NNNの記事 日テレNEWS24

・ラジオ関西「出産育児一時金の増額にあわせて、産院の便乗値上げが続出」2023年1月10日正常分娩58万円から66万円への改定例と、当時のSNS上の反応を紹介。ラジオ関西の記事 Jocr

※「2027年秋~2028年4月頃」という施行時期、および「2026年度には54万円前後まで上昇する可能性」は、上記公表資料から工程・過去の上昇傾向を基にした推測であり、厚生労働省が公表した予測値ではありません。


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