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勤務間インターバル制度の義務化を検討|飲食・宿泊・婚礼の現場で考える課題

執筆者の写真: NANGO
NANGO
10月16日
読了時間: 8分

更新日:3 日前

厚生労働省は10月14日、労働政策審議会の労働条件分科会で、勤務間インターバル制度について、義務化も視野に法的位置付けや休息時間、例外措置の在り方を議論しました。

今回示されたのは、具体的な検討論点です。現時点で「11時間」が一律の法定義務になったわけではありません。

現在、勤務間インターバル制度は労働時間等設定改善法に基づく事業主の努力義務で、終業から次の始業までに一定時間以上の休息を設け、生活時間や睡眠時間を確保することを目的としています。


勤務間インターバル制度の導入状況

2025年の就労条件総合調査では、勤務間インターバル制度の導入状況は次のとおりでした。

  • 導入済み企業:6.9%

  • 導入を予定・検討している企業:13.8%

  • 導入予定も検討もしていない企業:78.7%

調査対象は、常用労働者30人以上の民営企業です。

導入を予定・検討していない企業の57.3%は、「超過勤務の機会が少なく、制度を導入する必要性を感じない」と回答しています。

一方、制度を導入するうえでの課題として、人員不足や仕事量による業務への支障9.4%、労働時間管理の煩雑さ8.7%、夜間を含む顧客・取引先対応8.5%なども挙げられています。


義務化を前提に見ると

ここで、調査結果を義務化という観点から考えてみます。

導入済み 6.9%

導入を予定・検討 13.8%

未検討78.7%のうち「超過勤務が少なく必要性を感じない」57.3%

6.9+13.8+(78.7×57.3%)=約65.8%

ざっくり読むと、全体の約3分の2は比較的導入しやすい側にあると見られます。

逆に残る約34.2%には、制度を義務化しただけでは解決しない問題を抱える企業が含まれます。

義務化を考えるうえで、より難しいのはこちらの層です。

休息時間を設ける必要性が分かっていても、人員不足や仕事量、顧客対応などの事情によって、実際の勤務を変更することが難しい企業があります。

こうした問題は、制度の導入を義務づけるだけで解消するものではありません。

特に飲食・宿泊・婚礼では、労働時間の問題が営業形態や業務の分担、従業員の専門性と深く結びついています。


飲食・宿泊・婚礼では、なぜ導入が難しいのか

飲食・宿泊・婚礼には、終業時刻は延びやすい一方、翌日の始業時刻は動かしにくいという共通点があります。

厚生労働省も宿泊業・飲食サービス業向けの専用マニュアルを作成しており、この業種特有のシフトや業務構造を前提に制度導入を扱っています。

例えば、23時に業務を終え、翌朝8時から勤務すれば、休息時間は9時間です。

11時間を確保するなら、翌日の始業を10時以降にする必要があります。

しかし、問題はそこからです。

誰が朝の業務を担当するのか。始業を遅らせた時間の賃金をどう扱うのか。シフトや変形労働時間制とどう整合させるのか。

単に「11時間空ける」というルールだけでは現場は回りません。

特に始業時と終業時には、責任を伴う仕事が集まりやすいという事情があります。

開店前の準備や営業終了後の確認、宿泊客への対応、婚礼の進行管理など、経験や判断力を必要とする業務も少なくありません。

単に人を増やして早番と遅番に分ければ解決するとは限らないのです。


中抜け勤務をどう扱うのか

宿泊業に多い中抜け勤務も、今後の制度設計では考えておきたい論点です。

勤務間インターバルは、連続した休息によって睡眠や生活時間を確保する制度です。

一方、中抜け勤務では、朝と夕方以降の勤務の間に数時間の休息があり、疲労回復や私生活に使える時間として一定の意味があります。

その一方で、一日の最初の始業から最後の終業までの拘束時間は長くなりやすく、夜間の睡眠時間が短くなることもあります。

旅館では、夕食と朝食の双方に同じ従業員が関わる中抜け型勤務もあり、拘束感が長くなりやすいことが指摘されています。

中抜け時間を休息として全く評価しないのも実態に合わない一方、それがあるから夜間の連続休息が短くてもよいとも言い切れません。

義務化するなら、「終業から次の始業まで何時間」という一つの尺度だけでなく、中抜けによる休息の効果と長時間拘束の双方を、制度目的との関係でどう扱うかも検討する必要があります。


属人性は、中小企業が持つ強みでもある

もう一つ考えておきたいのが、業務の属人性です。

厚生労働省の導入マニュアルでは、業務分担、標準化、多能工化、IT活用などが制度導入の手段として挙げられています。

マニュアル化や多能工化、引継ぎの標準化によって「誰でも代われる体制」をつくることは、一つの解決策です。

ただ、これは人員をある程度確保し、業務を細分化できる大企業では取りやすい方法でもあります。

中小の飲食・宿泊・婚礼では、限られた人数の中で、それぞれの経験や判断力、顧客との関係、専門的なスキルを有効に使うこと自体が経営上重要です。

味を支えるシェフ、常連客の好みまで把握しているサービスマン、婚礼の進行を見極めるプランナー。

こうした人の判断や技能は、短期間のマニュアル化では残せません。

そもそも、中小企業では、すべての仕事を誰でもできるようにすることが、必ずしも合理的とは限りません。

限られた人員の中で、それぞれの経験や専門性を最大限に生かすことによって、大企業とは異なるサービスを提供し、競争力を維持している企業もあります。

その意味で、属人性は単に解消すべき業務上の問題ではなく、中小企業の強みそのものでもあるのです。

特に、始業時と終業時には責任ある仕事が集まりやすく、単に早番と遅番に人を分けても、その責任まで同じように分けられるとは限りません。

例えば、業務の一部を別の従業員に任せることはできても、最終的な品質の判断や顧客との関係、現場全体を見渡した対応まで簡単に代替できるとは限らないのです。

勤務間インターバルを確保するために、こうした属人性をすべて排除しようとすれば、中小企業が持つ強みまで失う可能性があります。

標準化できる仕事は標準化する。その一方で、誰の判断や技能をどこで生かすのか、その人に勤務負担を集中させず、どう活用するのか。

そこまで含めて制度を設計する必要があります。

勤務間インターバル制度を導入するために、企業が長年培ってきた専門性やサービスの質を損なってしまっては、別の経営上の問題を生むことになります。

休息時間を確保することと、中小企業の競争力を維持すること。その両立こそが、制度導入における難しい課題なのです。


義務化には、勤務時間以外の制度設計も必要

そのため、義務化を考えるなら、休息時間の長さだけでなく、例外の範囲、始業繰下げ時の賃金、交代勤務、中抜け、勤怠管理、責任業務、就業規則への落とし込みまで含めて考える必要があります。

例えば、始業時刻を繰り下げれば休息時間は確保できますが、朝の業務を誰が担うのかという問題が残ります。

交代勤務を導入する場合も、単に勤務時間を分けるだけではなく、責任ある仕事をどのように引き継ぐのかを考えなければなりません。

中抜け勤務については、休息時間としての効果と拘束時間の長さをどう評価するのかという問題があります。

さらに、始業繰下げ時の賃金の取扱いや、変形労働時間制との整合性、勤怠管理、就業規則の整備など、労務管理上の課題も生じます。

これらは、制度の条文を整えるだけで解決する問題ではありません。

特に、限られた人員で専門性の高いサービスを提供する中小企業では、勤務時間の変更がそのまま営業体制やサービスの質に影響します。

制度の義務化を検討するのであれば、こうした中小企業の経営構造を踏まえた議論が欠かせません。


制度導入を支援する助成金も

なお、2026年度には勤務間インターバル制度の導入を支援する助成金も設けられています。

一定の要件を満たせば、勤怠・シフト管理システムや省力化設備のほか、外部専門家による制度設計や就業規則の整備も対象になり得ます。

制度導入を検討する企業にとっては、こうした支援策の活用も選択肢となります。

ただし、助成金を活用できたとしても、日々の営業やサービスをどのように維持するのかという問題は、企業自身が考えなければなりません。


まとめ

勤務間インターバル制度は、労働者の生活時間や睡眠時間を確保するための制度です。

しかし、今回の調査結果を義務化という観点から見ると、全体の約3分の2は比較的導入しやすい側にあると考えられる一方、残る約34.2%には、制度を義務化するだけでは解決できない問題を抱える企業が含まれています。

特に飲食・宿泊・婚礼では、終業時刻と翌日の始業時刻、交代勤務や中抜け勤務、責任業務の分担など、営業の仕組みそのものと勤務時間が密接に結びついています。

さらに、中小企業では、従業員の経験や判断力、顧客との関係、専門的な技能といった属人性が、重要な競争力になっています。

それらを単純な標準化や多能工化によって置き換えることが、必ずしも合理的な解決策になるとは限りません。

制度の義務化を考えるのであれば、労働者の休息を確保するという目的を実現すると同時に、こうした中小企業の強みをどう守るのかという視点も必要です。

飲食・宿泊・婚礼における勤務間インターバル導入の成否を分けるのは、「何時間と定めたか」より、「その時間を守っても営業やサービスが成立するよう仕事を再設計できたか」です。


参考資料

厚生労働省「第212回労働政策審議会労働条件分科会(資料)」

厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」

厚生労働省「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル(宿泊業・飲食サービス業版)」

厚生労働省「勤務間インターバル制度とは」

厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」


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