就業規則を見直すなら、助成金も一緒に。「自分のお店でも使えそうか」を確認する

「最低賃金を引き上げる」「長時間労働を減らす」「休暇を取りやすくする」「パート・アルバイトの待遇を改善する」「外国人スタッフの就労環境を整える」。
法律による義務や国が推進する施策など、企業に求められることは年々増えています。
どれも大切なことですが、実際に対応するとなれば簡単ではありません。
特に中小の飲食店では、人手が限られるなかで、賃金の引上げ、シフトの見直し、就業規則や労働条件通知書の整備など、費用も時間もかかります。
「対応しなければならないのは分かるけれど、その費用はどうするのか」
そう感じる経営者の方も少なくないと思います。
国も、こうした取り組みが中小企業にとって負担になることを踏まえ、労働環境の改善や賃上げ、設備投資などを支援する助成金や補助金を設けています。
もちろん、法律を守ったり、就業規則を作成したりするだけで助成金が支給されるわけではありません。それぞれに目的があり、満たさなければならない条件もあります。
ただ、どうせ費用をかけて就業規則や雇用契約書、労働条件通知書を整えるのであれば、その機会に利用できる助成金がないか確認してみる価値はあります。
制度の見直しと助成金の活用を一緒に考えることで、費用負担を抑えながら、職場環境の改善につなげられる場合もあります。
今回は、飲食店で検討できる主な助成金について、どのようなお店が対象になるのか、見落としやすい条件も含めて整理していきます。
1.就業規則を整備するなら、助成金も先に確認しておく
就業規則や労働条件通知書を見直す際には、賃金規程や休暇制度、正社員転換制度なども一緒に整備するという方法があります。
例えば、パート・アルバイトの雇用条件を見直すなら、時給の引上げや正社員転換制度の導入も検討する。休暇制度を見直すなら、年次有給休暇の計画的付与制度などもあわせて考えてみる。
こうした取り組みが助成金の要件に合えば、必要な制度改善をまとめて進めながら、費用負担を軽減できる可能性があります。
ただし、助成金には事前の計画提出や交付決定が必要なものもあり、先に制度を導入してしまうと対象外になる場合があります。
だからこそ、改定内容を決める前に、自分のお店で利用できそうな助成金がないか確認しておくことが大切です。
せっかく整備するのであれば、助成金の要件も踏まえて、一度に必要な制度を整える。そうした進め方も合理的ではないでしょうか。
2.どんな整備に、どの助成金が使える?
就業規則や労働条件通知書を見直す際に、あわせて取り組む内容によって、検討できる助成金が異なります。
整備・改善したいこと | 検討できる助成金 |
労働時間や休暇制度を見直したい | 働き方改革推進支援助成金 |
パート・アルバイトの時給を引き上げたい | キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース) |
パートの正社員転換制度を整えたい | キャリアアップ助成金(正社員化コース) |
外国人スタッフ向けに就業規則などを整えたい | 外国人労働者就労環境整備助成コース |
賃上げとあわせて設備投資も考えている | 業務改善助成金 |
ただし、いずれも書類を作成・改定するだけで支給されるものではなく、対象となる事業主や従業員、必要な取り組みなどに条件があります。
ここからは、「自分のお店でも使えそうか」を判断できるよう、それぞれの主な要件と、見落としやすい点を見ていきます。
3.働き方改革推進支援助成金
労働時間や休暇制度を見直したいお店に
労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進などを支援する助成金です。
「労働時間短縮・年休促進支援コース」では、例えば次のような取り組みが助成対象となり得ます。
社労士などの専門家に依頼し、労働時間管理やシフト運用の問題点を分析・改善する
紙のタイムカードや手書きの出勤簿から、勤怠管理システムに切り替える
ICカード式のタイムレコーダーを導入し、労働時間の記録・集計を効率化する
就業規則や労使協定を見直し、新たな休暇制度などを整備する
主な条件は、労災保険の適用事業主であること、中小企業事業主に該当すること、年休管理簿を整備していることなどです。
また、時間外労働の上限設定の見直し、年次有給休暇の計画的付与制度の導入など、所定の成果目標を達成する必要があります。
見落としやすい点
就業規則の作成やシステムの導入だけでは、助成金の支給対象にはなりません。
例えば、すでに導入済みの休暇制度を整理し直すだけでは、新たな制度導入という成果目標を満たせない場合があります。
また、常時10人以上を使用する事業場では、年休の時季指定に関する就業規則の整備・届出など、申請前から満たしておくべき条件もあります。
交付決定前に対象経費となる契約や発注を進めることにも注意が必要です。
4.キャリアアップ助成金
パート・アルバイトの賃金や雇用形態を見直したいお店に
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を支援する制度です。
飲食店では、パート・アルバイトの時給改定や正社員登用を考える際に、次の2つのコースが候補になります。
① 賃金規定等改定コース
パート・アルバイトなどの基本給について、賃金規定等を改定し、3%以上増額する場合に検討できる助成金です。
例えば、時給1,300円のアルバイトについて、賃金規定を見直して1,340円に引き上げるケースです。
これまで賃金規定がなかったお店でも、新たに規定を作成し、所定の要件を満たす賃上げを行えば対象になる場合があります。
見落としやすい点
単に特定のスタッフの時給を上げるだけでは足りません。
対象となる従業員の範囲を、職種や雇用形態など合理的な区分で定め、賃金規定等を改定して適用する必要があります。
また、助成対象となるのは原則として雇用保険の被保険者です。 短時間勤務の学生アルバイトなど、雇用保険に加入していない人は対象になりません。
最低賃金の引上げに伴う改定についても、法定最低賃金に達するまでの増額分を算入できない場合があるため、注意が必要です。
② 正社員化コース
有期雇用労働者などを正社員に転換する場合に検討できる助成金です。
例えば、長く勤務しているアルバイトを正社員として採用するため、就業規則に正社員転換制度を設け、実際に転換するケースです。
原則として、転換前に6か月以上の雇用期間が必要で、転換後6か月間の賃金を転換前と比較して3%以上増額するなどの要件があります。
見落としやすい点
単に「正社員」という名称に変更するだけでは足りません。
正社員に適用される昇給制度や賞与・退職金制度など、雇用区分や処遇が所定の要件を満たしている必要があります。
また、転換前の雇用期間や雇用保険の加入状況なども確認されます。
すでに正社員へ転換した後では、助成対象にならない場合があります。
なお、キャリアアップ助成金では、いずれのコースも原則として取り組みを始める前日までにキャリアアップ計画を提出する必要があります。
就業規則や賃金規程を見直す予定があるなら、改定内容を決める前に確認しておきたい制度です。
5.外国人労働者就労環境整備助成コース
外国人スタッフの雇用管理を整えたいお店に
外国人労働者が働きやすい環境を整え、職場への定着を促進するための助成金です。
2026年10月の改正後は、所定の要件を満たすと20万円、一時帰国のための休暇制度も導入・実施すると合計25万円が支給されます。
雇用労務責任者の選任と講習受講、3か月ごとに1回以上の面談に加え、次の文書の多言語化などが必要です。
就業規則または労働協約
労働条件通知書または雇用契約書
社内マニュアル
見落としやすい点
この助成金で特に確認したいのが、雇用保険の被保険者となる外国人労働者を雇用しているかという点です。
飲食店で働く昼間学生の留学生アルバイトは、原則として雇用保険の対象外です。
そのため、外国人スタッフが多いお店でも、全員が一般的な昼間の留学生であれば、この助成金は利用できません。
また、就労環境整備計画期間終了後6か月間の外国人労働者の離職率が、原則15%以下であることも必要です。
ただし、離職率の算定対象となる外国人労働者が2〜6人の場合は、1人の離職まで認められる特例があります。
なお、離職率は店舗ごとではなく、原則として事業主の全事業所における雇用保険の一般被保険者である外国人労働者を基準に算定します。
外国人スタッフの入退職が多いお店では、事前に確認しておきたい条件です。
単に就業規則を翻訳するだけでなく、継続的に雇用管理を行えることが求められます。
6.業務改善助成金
賃上げと設備投資を一緒に考えているお店に
業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金を引き上げ、生産性向上につながる設備投資などを行う場合に、その費用の一部を助成する制度です。
飲食店であれば、POSシステムや業務効率化につながる設備の導入などが考えられます。
2026年度は、事業場内最低賃金を50円以上引き上げることなどが条件です。
また、申請時点の事業場内最低賃金が、2026年度の改定後の地域別最低賃金を下回っていることや、中小企業・小規模事業者に該当することなども必要です。
見落としやすい点
単に時給を引き上げるだけでは対象になりません。生産性向上につながる設備投資等と組み合わせる必要があります。
また、2026年度は、申請時点で雇用保険の被保険者であり、雇入れ後6か月を経過した労働者を対象に、事業場内最低賃金を引き上げる必要があります。
短時間の学生アルバイトだけを雇用しているお店では、対象者の要件を満たせない可能性があります。
さらに、キャリアアップ助成金と併用できる場合もありますが、業務改善助成金で賃上げの対象とした従業員を、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の支給対象者として重複して数えることはできません。
最低賃金改定に合わせた時給の引上げを考えている場合でも、申請期限や賃上げの実施時期によって対象外になることがあるため、事前確認が欠かせません。
なお、こちらは就業規則の作成費用を直接助成する制度ではなく、賃金制度の見直しと設備投資を一緒に考える場合の候補です。
7.一度の改定で、複数の助成金を活用できる?
ここまで紹介した助成金は、それぞれ支援する取り組みが異なります。
では、就業規則を一度改定する際に、複数の助成金を組み合わせることはできるのでしょうか。
Q.同じ就業規則の改定で、複数の助成金を利用できますか?
可能な場合があります。
例えば、就業規則の見直しにあわせて、パート・アルバイトの賃金規程を改定し、正社員転換制度や新たな休暇制度も整備する場合です。
それぞれの取り組みが異なる助成金の要件を満たしていれば、一度の改定をきっかけに複数の助成金を原則活用できます。
ただし、同じ取り組みや同じ経費について、二重に助成を受けることは認めらないことがあります。助成金の組み合わせによっては併給制限もあります。
一度にまとめて整備することと、同じ取り組みで複数の助成金を受け取ることは別の話です。
Q.複数の助成金を組み合わせる場合、何に注意すればよいですか?
助成金によって、計画の提出時期や対象となる従業員、必要な実施期間などが異なります。
そのため、一度に制度を整備する場合でも、それぞれの助成金の要件を個別に満たす必要があります。
また、先に制度を導入してしまうと、後から申請できない場合もあります。
就業規則や労働条件通知書の改定内容を決める段階で、利用できる助成金と申請時期をあわせて確認しておくと、無駄のない整備計画を立てやすくなります。
8.まとめ:せっかく整備するなら、まとめて考える
就業規則や労働条件通知書の整備は、労働条件を明確にし、労務トラブルを防ぐための大切な取り組みです。
その際、賃金制度や休暇制度、正社員転換制度などもあわせて見直すことで、助成金の対象となる場合があります。
ただし、助成金にはそれぞれ支給要件があり、事前の計画提出や実際の制度運用が必要なものもあります。単に書類を整備するだけで支給されるわけではありません。
また、助成金のために必要のない制度を導入しては、本来の目的から外れてしまいます。
まずはお店に必要な労務管理を考える。そのうえで、利用できる助成金があれば、要件を踏まえて一体的に整備する。
別々に進めるよりも、費用や手間を抑えながら、効率よく制度を整えることができます。
参考資料・関連リンク
※本記事は2026年10月27日時点の制度をもとに、主な要件を簡潔に整理したものです。ここで紹介した内容だけで受給可否が確定するものではありません。助成金の要件や申請期限は年度ごとに変更される場合があるため、申請時には最新の公表資料をご確認ください。




コメント