育児・介護休業法23条の3、よくある準用ミス

更新日:2 日前
育児・介護休業規程を法改正に対応させたつもりが、実は法定基準を下回っている可能性があります。
10月8日、労働新聞が栃木労働局による注意喚起を報じました。
対象となっているのは、2025年10月1日に施行された、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者への「柔軟な働き方を実現するための措置等」(育児・介護休業法第23条の3)です。
栃木労働局によると、企業がこの措置の選択肢として短時間勤務制度を設けた際、就業規則や育児・介護休業規程の書き方を誤り、法律上の基準を満たさなくなっている例が相次いでいます。
問題になっているのは、従来からある3歳未満向けの短時間勤務制度を、そのまま準用してしまうケースです。
従来の短時間勤務制度を準用すると、何が問題になるのか
よくある事例は、次のようなものです。
3歳未満の子を養育する労働者のための短時間勤務制度は、以前から事業主に義務づけられていました。
育児・介護休業法第23条第1項に基づく制度で、1日の所定労働時間を原則6時間とするものです。
この制度では、「1日の所定労働時間が6時間以下の労働者」を対象から除外することが認められています。
そのため、多くの企業では、従来の育児・介護休業規程に次のような条項が設けられています。
「1日の所定労働時間が6時間以下の従業員は対象外とする」
ここまでは、3歳未満向けの短時間勤務制度として認められている取扱いです。
ところが、2025年10月1日から、新たに3歳から小学校就学前の子を養育する労働者への「柔軟な働き方を実現するための措置」が義務づけられました。
事業主は、次の5つから2つ以上の措置を選択して講じる必要があります。
始業時刻等の変更
在宅勤務等
保育施設の設置運営等
養育両立支援休暇
短時間勤務制度
ここで、会社が「短時間勤務制度」を選択肢の一つとして設けることにしたとします。
すでに3歳未満向けの短時間勤務制度があるため、新たに規定を作らず、
「短時間勤務については第19条(従来の3歳未満向け規定)を準用する」
と記載して対応する場合があります。
しかし、これでは問題が生じることがあります。
従来の規定にある「6時間以下の従業員は対象外」という除外条項まで、一緒に適用されてしまうからです。
3歳以上の「柔軟な働き方を実現するための措置」では、1日の所定労働時間が6時間以下であることだけを理由に、短時間勤務制度の対象から除外することは認められていません。
そのため、従来の条文を丸ごと準用すると、法定基準を下回る規定になってしまう可能性があります。
同じ「短時間勤務制度」でも、制度の目的が違う
なぜ、このような違いがあるのでしょうか。
3歳未満の子を養育する労働者のための短時間勤務制度は、そもそも「1日の所定労働時間を原則6時間にする制度」です。
すでに6時間以下で働いている人は、制度が実現しようとしている勤務時間以下になっています。
そのため、法第23条第1項では、こうした労働者を対象外にすることが認められています。
一方、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対する「柔軟な働き方を実現するための措置」は、考え方が異なります。
こちらは、会社が5つの措置から2つ以上を用意し、労働者がその中から選んで利用できるようにする制度です。
つまり、
3歳未満:原則6時間の勤務を保障する制度
3歳以上:複数の柔軟な働き方から選べるようにする制度
という、制度目的の違いがあります。
同じ「短時間勤務制度」という言葉が使われていても、法律上の位置づけが異なるのです。
そのため、3歳未満向けの短時間勤務制度では認められていた除外条項を、そのまま3歳以上向けの制度に持ち込むことはできません。
「あなたはもう6時間以下で働いているのだから、短時間勤務制度は必要ないでしょう」と、会社が一方的に選択肢から外すことは認められないのです。
こうした違いを知らずに従来の条文を準用してしまうのも、ある意味では自然な話です。
しかし、その結果として法律の基準を下回ってしまうのであれば、規程を修正する必要があります。
飲食店の5時間勤務のパートなら、どうなるのか
例えば、飲食店で1日5時間勤務のパート従業員に、4歳の子がいるとします。
会社は、3歳以上の子を養育する従業員のために、次の2つの措置を用意しました。
短時間勤務制度
始業・終業時刻の変更
会社としては、法律で求められる2つの措置を用意したつもりです。
しかし、短時間勤務制度の規定に「1日の所定労働時間が6時間以下の従業員は対象外」と書かれていたら、どうなるでしょうか。
このパート従業員は、すでに1日5時間勤務です。
短時間勤務制度は対象外とされるため、実際に選べるのは「始業・終業時刻の変更」だけになります。
会社は2つの措置を用意したつもりでも、その従業員から見れば選択肢は1つしかありません。
これでは、その労働者について法定基準を満たさないことになります。
飲食店では、1日4時間や5時間など、もともと短時間で働いているパート・アルバイトも珍しくありません。
そのため、こうした規程の準用ミスは、実際の勤務形態とも関係する問題です。
5時間勤務の人に短時間勤務制度を用意する意味はあるのか
ここで、疑問に思うかもしれません。
「すでに5時間勤務の人に、6時間の短時間勤務制度を用意して何の意味があるのか」
実際、制度を利用しても労働時間が変わらないのであれば、短時間勤務制度を用意する意味がないようにも見えます。
しかし、厚生労働省のQ&Aでは、この点について取扱いが示されています。
1日の所定労働時間が6時間以下のパートタイム労働者などについても、事業主が短時間勤務制度と、それ以外の4つの措置から少なくとも1つを用意し、短時間労働者も含めて対象としていれば、措置義務を履行したことになります。
すでに6時間以下で働いていることだけをもって、短時間勤務制度を措置したことにはなりません。
一方で、短時間勤務制度の対象に含めていれば、その人の実際の労働時間が変わらなくても、会社が講じた措置の一つとして扱われます。
つまり、
「すでに短時間勤務だから、制度を用意する必要はない」ではありません。
「労働時間が変わらないから意味がない」という理由で、会社が対象から除外することはできないのです。
ここにも、3歳未満向けの短時間勤務制度との違いが表れています。
栃木労働局が示す2つの修正方法
では、すでに従来の短時間勤務制度を準用する形で規程を作成している場合、どのように修正すればよいのでしょうか。
栃木労働局は、2つの方法を示しています。
① 6時間以下の従業員も対象になることを明記する
従来の3歳未満向けの短時間勤務規定を準用する場合でも、3歳以上向けの規定に、次のようなただし書きを追加します。
「ただし、所定労働時間が6時間以下の従業員であっても、本措置の対象とする」
これにより、従来の短時間勤務制度に除外条項があっても、3歳以上の柔軟な働き方の措置では、6時間以下の従業員も対象になることが明確になります。
② 6時間以下の従業員が選べる別の措置を追加する
もう一つは、6時間以下の従業員を短時間勤務制度の対象から除外する代わりに、その従業員が選べる別の措置を追加する方法です。
例えば、会社が短時間勤務制度と始業・終業時刻の変更を用意している場合、6時間以下の従業員には短時間勤務制度が適用されないのであれば、さらに別の措置を設ける必要があります。
重要なのは、3歳から小学校就学前の子を養育する対象労働者について、法定の2つ以上の措置が用意されている状態にすることです。
単に規程の上で2種類の制度が並んでいるだけではなく、対象労働者が利用できる内容になっているかを確認する必要があります。
今、対象となる従業員がいなくても修正は必要
さらに重要なのが、現在の従業員の在籍状況です。
例えば、会社に「1日の所定労働時間が6時間以下で、3歳以上の子を養育する従業員」が一人もいなかったとします。
この場合、
「うちには対象者がいないから、今は規程を直さなくてもよい」
と考えるかもしれません。
しかし、栃木労働局は、この点についても明確に注意喚起しています。
現在、1日の所定労働時間が6時間以下の労働者が在籍していなくても、それを理由に対象外とすることはできません。
現在の在籍状況にかかわらず、法令に適合した規程としておく必要があります。
今は対象者がいなくても、今後、新たに短時間勤務の従業員を雇い入れたり、既存の従業員の家庭状況が変わったりする可能性があります。
規程は、現在の従業員だけでなく、制度の対象となる労働者に適用できる内容でなければなりません。
法改正対応のつもりで、従来の規定をそのまま使っていないか
2025年10月1日の法改正では、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者のために、柔軟な働き方を実現する措置を2つ以上講じることが義務づけられました。
企業では、これに対応するため、就業規則や育児・介護休業規程の改定を行ってきました。
しかし、今回栃木労働局が注意喚起しているのは、その改定の書き方です。
従来からある3歳未満向けの短時間勤務制度を準用すること自体ではなく、準用した結果、認められていない対象者の除外まで引き継いでしまうことが問題になっています。
同じ「短時間勤務制度」という名称でも、制度目的や法的な取扱いが異なります。
その違いを確認せずに条文を準用すれば、法改正に対応したつもりでも、法律の基準を満たさない規程になってしまいます。
これは栃木県だけの問題ではないと思います。
特に、従来の育児・介護休業規程を部分的に書き換えて対応した企業では、同じような記載がないか確認しておきたいところです。
まとめ
今回の注意喚起は、2025年10月に施行された育児・介護休業法改正について、施行後の規程運用で実際に見つかっている不備を取り上げたものです。
3歳未満向けの短時間勤務制度では、1日の所定労働時間が6時間以下の労働者を対象外にすることが認められています。
しかし、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者への柔軟な働き方の措置では、同じ除外をそのまま適用することはできません。
同じ「短時間勤務制度」でも、制度の目的と法的な位置づけが違うのです。
栃木労働局は、6時間以下の従業員も対象とすることを明記する方法と、その従業員が選べる別の措置を追加する方法を示しています。
また、現在該当する従業員がいない場合でも、法令に適合した規程にしておく必要があります。
法改正に合わせて条文を追加したかどうかだけではなく、従来の規定を準用した結果、対象者が不当に除外されていないか。
育児・介護休業規程を改定済みの企業でも、改めて確認しておきたい点です。




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